子どものこころとからだのケア

目次:

第9回 「アメとムチ」のしつけは正しい?
第8回 いじめの「周辺」について考える(下)
第7回 いじめの「周辺」について考える(上)
第6回 子どもが不安を感じたときの対応
第5回 子どものやる気と動機づけ
第4回 「期待」と「ピグマリオン効果」
第3回 「ほめる」ということについて
第2回 子どもに対する関わりの大切さ
第1回 震災報道に際しての子どもの心理的なケア

 

 

第6回 子どもが不安を感じたときの対応

Posted by on 4月 7, 2014 in Column | 0 comments

2012年5月12日

 

子どもが不安を感じたときの対応 : 「心を配り、寄り添うこと」がキー・ポイント

 

<震災報道などのショッキングな映像の子どもに対する影響>

東日本大震災から1年2ヶ月が過ぎました。震災からちょうど1年後の2012年3月11日前後には、多くのメディアが震災についての報道を行って いました。香港でも、NHKの国際放送などを通して、数多くの震災の特集を視聴することができました。時期を同じくして、日本の各新聞紙上では、子どもへ の震災の報道映像の影響について、論じられるようになっていたことにも気づかれた方も多いかと思います。

例えば、毎日新聞(2012年3月4日)では、「東日本大震災:報道映像、どう向き合う? 「見る」「見ない」子どもの意思で/心の回復に個人差」と題して、子どもが報道映像を見ることについて、専門家や専門機関の声も踏まえて論じられていました。
その中では、日本小児神経学会が、昨年の地震直後にホームページに掲載した緊急アピール「子どもに被害映像を見せない配慮を」を、2011年12月末から 再びページの冒頭に載せ、「子どもが映像を今起きていることと誤解したり、脳が許容以上の刺激を取りこんだりする恐れがある」と指摘していたことが紹介さ れていました。また、東日本大震災心理支援センターや日本子ども家庭総合研究所が、「子どものテレビ視聴時間帯に津波などの映像を流さないよう報道機関に 求めていた」ということなども併せて紹介されていました。

 

<子どもに心を配り、寄り添うことの大切さ> 

上述の毎日新聞の記事では、「大人が一方的に震災の報道映像を視聴させたりすることや、逆に、子どもに対する報道映像の制限をしないようにするこ とが大切」という、臨床心理学者で東京女子大学の前川あさ美教授の声も紹介されていました。「見せることがダメなの?見せないのがダメなの?どっちな の?」と一瞬、混乱してしまいそうですが、要は「子どもの意思を無視した大人の姿勢が、子どもを一層不安にさせる」ということでした。前川教授は「子ども が見ていたら『見たくなければ見なくていいんだよ』と話し、一緒に見て説明を加えたり、子どもの言葉に耳を傾けたりしてほしい。言葉に出すと子どもは安心 できることがあります」と説明しています。

記事では続けて、国立成育医療研究センター・心の診療部の奥山眞紀子部長の「自殺報道の後追いに未成年が多いように、子どもは大人より映像の影響 を強く受けやすい」、「子どもは嫌でも見続けてしまうことがあるので、1人で没頭するように見ていたら声をかけて」、「見て心がざわついたら止めた方がい い」との声も紹介していました。
前川教授と奥山部長のアドバイスを総合すると、「大人が子どもに寄り添うことの大切さ」がキー・ポイントになっ ていることが分かります。震災の映像を見せることの是非を議論することも大切ですが、まずは、子どもが映像を視聴した際に、大人が子どもの状態に心を配 り、映像を見たことによる不安はないかどうか、通常との違いがないかどうかを確認することや、映像を視聴している際のケア(声掛けなど)が、更に重要に なってくるのです。

 

<ショックや怖い体験があったら> 

「こういった話題は、震災直後にタイミングよく提供してほしかった」と言われるかもしれません(すみません)。今回は、実感しやすい例として震災 報道をあげましたが、こういったことは、実は震災報道に限ったことではありません。恐竜が出てきて人が襲われるといった恐怖映画の影響や、実際に大きな犬 に追いかけられたとか、事故現場を目撃してしまったとかなどの恐怖体験についても同様です。

子どもを観察し、その後、不安がないかどうか、通常との違いがないかどうかという確認をすることはもとより、子どもの声に真摯に耳を傾けて、少し でも安心できる言葉掛けをしてあげることによって、子どもの恐怖体験は和らぎます。(ショックやストレスが甚大な場合は、心配りや声掛けだけで解決できる というものではありません。明らかに通常とは異なる状態が子どもに顕著に見られたら、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症を心配する必要がありま す。その場合は、早急に専門医を受診したり、専門家に相談したりしなければなりません。)
子どもの恐怖体験を和らげるものとしては、心配り、声掛け以外にも、子どもが好きなものや、落ち着けるものに触れることがあげられます。後者についての詳細は以下にご紹介したいと思います。

 

<子どもが好きなもの、落ち着けるものを把握しておく>

震災の後、複数のメディアが、とある書店に関する心温まる記事を配信していました。震災から1年経過しても、この話を取り上げていたメディアもあるほどですので、ご存知の方も多いかと思います。

「1冊の『少年ジャンプ』を100人の子どもが立ち読みした」という話です。震災後しばらく、雑誌の配送が止まっていた仙台市内の書店に、「山形 まで出向いて購入してきたという一冊の『少年ジャンプ』」がお客さんによって届けられました。店主が「ジャンプ読めます」と店の外に張り紙をすると、その 話は口コミなどでお母さんや子どもたちの間に広がり、どんどん子どもたちが読みに来るようになったのです。そして、その『ジャンプ』は、紙が擦り切れるほ ど、多くの子どもたちによって読まれたとのことでした。
店主は「マンガを読んだ子どもたちが笑ってくれて、店を開いてよかったと思った」とコメ ントしていましたが、震災で恐怖体験をした子ども、いつ余震が来るかわからず不安でいっぱいの子ども、周りの空気が重々しくてそのストレスを感じている子 ども・・・・そういった子どもたちが、「いつも楽しみに読んでいる大好きなマンガ」に触れることで、少しずつ笑顔を取り戻していったという話です。
子どもが好きなもの、落ち着けるものは、マンガのような「モノ」だけに限定されているわけではありません。浜松医科大学・児童青年期精神医学講座の杉山登 志郎特任教授は、著書の中で、EMDR治療とよばれる、トラウマ処理の技法を用いた治療(心の傷への治療)について紹介し、「トラウマを扱うときには、ま ず安全な場所のイメージを作ることが必須になる」と述べています。(その療法では、それ以外のことも同時に行うのですが、その詳細については本題からそれ るために、ここでは割愛します。)
杉山教授が担当した中に、「祖母とコタツに入っている情景」を安全な場所として述べた人がいました。忙しい両 親に代わって常に接してくれた大好きな祖母と共有する時間こそが、その人にとっての安全な場所そのものだったのでしょう。人によっては、それが毎週楽しみ にしている家族とのサイクリングの時間であったり、定期的に開催される友達とのBBQパーティーだったりするかもしれませんし、たくさんのおもちゃやぬい ぐるみを使って、お人形ごっこをすることかもしれません。プラレールで高架を作ることかもしれません。こういった場面や時間を持つことも、心の傷を癒す1 つの方法となります。
ストレスや恐怖体験の度合いによっても受ける影響は異なりますし、同じ体験をしても個人差も出てきますので、どの子どもに も同じような効果があるとは言えません。しかし、「周囲の大人からの言葉掛けや、好きなモノや居心地のいい場面が、それらのストレスを緩和させることにつ ながるということを認識すること」、そして、「こういった子どもにとっての安全感、安心感を得られるモノや場面を理解し、いつでもそれらを確保できるよう にしておくこと」はとても重要なことです。そのように考えると、繰り返しになりますが、やはり「心を配り、寄り添うこと」がキー・ポイントとなってくるの です。

 

香港日本人補習授業校スクールカウンセラー 合田美穂 (精神保健福祉士)