子どものこころとからだのケア

目次:

第9回 「アメとムチ」のしつけは正しい?
第8回 いじめの「周辺」について考える(下)
第7回 いじめの「周辺」について考える(上)
第6回 子どもが不安を感じたときの対応
第5回 子どものやる気と動機づけ
第4回 「期待」と「ピグマリオン効果」
第3回 「ほめる」ということについて
第2回 子どもに対する関わりの大切さ
第1回 震災報道に際しての子どもの心理的なケア

 

 

第5回 子どものやる気と動機づけ

Posted by on 4月 7, 2014 in Column | 0 comments

2012年2月15日

 

《子どもの時間の使い方》

前回、こちらのコラムに子供のやる気を引き出すことについて書かせていただいてから、早くも半年が過ぎました。あっという間です。最近、年配の方が「年齢を 重ねれば重ねるほど、時間が経つのも早く感じるようになるわよ」とおっしゃっていたばかりでしたが、確かにそう言えます。逆説的に考えると、子どもにとっ ては時間が過ぎるのはそんなに早くないものです。子どもによっては1日 の時間が過ぎるのがあまりにゆっくりで、「早く時間が過ぎて、いろんなことが自由にできる大人に早くなりたい!」と願っている子もいるかもしれません。そ のような「子どもがもてあます時間」をどうやって使うかということで悩んでおられる親御さんも多いかと思います。時間の使い方にはいろいろありますが、子 どもの自由な時間、遊ぶ時間、何もせずにボーっとする時間なども保障してあげる必要があります。その一方で、やるべきこと(宿題、決められたお手伝いな ど)はきちんとする。この両者のメリハリさえできていれば、少々無駄な「もてあます時間」があっても大丈夫です。

 

《子どもをやる気にさせるポイント》

「やるべきことが、なかなかできないんですよね」という声も多く聞かれます。子どもをやる気にさせるポイントとして、「ほめること」、「期待をこめること」に ついて、過去のコラムではお話をさせていただきましたが、ほかにも専門家が提言しているポイントがありますので、今回、ご紹介をさせていただきたいと思い ます。

先日、「子供の勉強 やる気を引き出すには 心に寄り添い「安心感」」(産経新聞、1 月19日)という興味深い記事がありました。その記事では、東京理科大学の吉田たかよし客員教授の著書である『子供がヤル気を出す家庭の秘密』(角川 oneテーマ)が紹介され、以下のようなポイントがまとめられていました。前回のコラムのお話とも重なりますが、そこにも、まず大切なことは、子どもをよ く観察して、「良いことをしたら褒める」、「悪いことをしたら叱る」が基本である、と書かれてありました。そこでは、吉田教授は「親が子供を褒める効果は 絶大で、『守られている』という安心感につながり、やる気になる」と強調しています。

さらに、その記事では、中学受験の個別指導教室「SS-1」の小川大介代表も同様に、長所をほめてやる気を出させることの大切さを強調していました。記事の 中で、小川代表は特に、父親が積極的に教育に関わることを勧めており、「本人も母親も気づいていない子どもの長所を、父親ができるだけたくさん見つけて言 葉にすれば、やる気を引き出せる。物理的にも心理的にも一定の距離が生じる父親だからこそできる」と述べています。
前述の吉田教授による、次の効果的なポイントは、「勉強する際には、ジョギングなどの有酸素運動をすること」だそうです。特に、勉強の前に体を動かすの がより有効だそうです。小学生にとっては、朝の勉強は難しいかもしれませんが、大学受験などを控える年齢になったら、早朝の時間を活用するのは効果的だと 思います。吉田教授自身もそういう朝の勉強方法を過去に試したことがあり、「集中力が高まるし、一日のリズムが正しくなり睡眠の質も高まる」と話していま す。

 

《ニート・ひきこもり傾向にある人達の「動機づけ」(どのようなときにやる気を持つことができるか)に着目した研究》

次にご紹介したいのは、京都大学・こころの未来研究センターの 内田由紀子准教授の研究グループが実施した「ニート・ひきこもり傾向にある人達の「動機づけ」(どのようなときにやる気を持つことができるか)に着目した 研究」 です。ニート・ひきこもり傾向にある人たち、といえば、社会人を連想しがちですが、この研究結果は、子育ての中でも、参考にしてみる価値があると 思えるのでご紹介することにしました。

研究グループが実施した研究には、「動機づけの実験」がありました。研究グループは、まず、北米と日本の学生に対して実施されたハイネらによる2001 年の比較文化の先行研究を参考にしました。そのハイネの研究とは、北米の学生は(自己の長所を重要視しているため)、ある課題に対して好成績であったと伝 えられた後には、同様の課題を継続して行う傾向があったそうです。その一方で、成績が芳しくなかったことが伝えられると、「自分にとって大切な課題ではな かった」と考え、課題への持続性が下がってしまったそうです。これは上述の「自信がつけばやる気になる」という考えにもつながる結果です。さらに興味深い のは、これに対しての日本の学生の反応でした。日本の学生は、失敗したときにこそ、「もっと頑張らなければ」という動機が高まり、類似課題に自発的かつ持 続的に取り組んでいたそうなのです。それぞれの社会背景の違いが反映されていることが興味深いですね。このハイネの研究結果を援用して、京大の研究グルー プは以下の実験を実施しました。

研究グループは、まず大学生を、ニート・ひきこもりになるリ スクの高いグループ「高リスク群」と、ニート・ひきこもりになるリスクが低いグループ「低リスク群」という二つのグループに分けました。そして、それぞれ のグループに対して、ハイネが実施したのと同じ課題をまず行ってもらってから、成績のフィードバックを行いました。その後、研究グループが、その実験への 参加者である学生が、どのぐらい自発的に同じ課題に取り組むかを検証したところ、ひきこもりになるリスクが低い「低リスク群」の学生は、成功したときより も失敗のした時の方が、類似課題を継続的に行っており、動機づけが高まっていたそうです。彼らは、失敗に対して「もっと頑張らねば」という気持ちを強く持 つことによって、課題への取り組みに対する動機を高めたと言えます。

しかし、その逆に、ひきこもりになるリスクが高い「高リスク 群」の学生は、成功した時よりも、失敗した時に、課題を継続する動機づけが低くなっていたそうです。つまりニート・ひきこもりのリスクの高い傾向にある 人々は、失敗の後に努力することをやめ、あきらめてしまう傾向があるといえる ようです。研究グループは、ニート・ひきこもりになるリスクが高い学生の背 景には「努力しても無駄だ」というような、適応力に対する自信のなさなどが見られるとしています。

 

《子どもへのかかわりでの応用》

ここでは、子どもが、ニート・ひきこもりになるリスクが高いか どうかということを論じているのではありません。また、「うちの子は、失敗したときにやる気をみせるタイプだから、ひきこもりにならないタイプでよかった わ」と考えるのも短絡的ですし、「うちの子は、失敗したらすぐにあきらめるタイプだから、すでにニート予備軍かも」と過剰に不安になる必要もありません。 上述の研究では、北米と日本とでは傾向が異なると言っていますし、地域や背景、また時代によっても、結果は変わってくるそうです。(実際に、今回、京大の グループが調査をした学生は、10年前の学生に比べて「全体的に」課題 への取り組み時間が減少していたそうです。この差は統計的に意味のあるもので、現在の学生は失敗した場合にも成功した場合にも、いずれにしても一生懸命課 題に取り組むという傾向が減退していたというのです。時代が変われば傾向も変わるわけです。)

何度も子どもに宿題や課題をさせている中で、子どもが「失敗し たときにやる気を見せるタイプ」であるか、「失敗したらあきらめるタイプ」であるか、それらのどちらかの傾向があるかは、ある程度わかってくると思いま す。周囲の大人は、子どものそういった傾向をできるだけ早い段階で把握しておき、子どもが前者(失敗したときにやる気を見せるタイプ)の場合は、「もっと 練習したらできるようになるよ」、「今度は同じ失敗をしないように注意してみようか」と、失敗を成功につなげていくような言葉かけを積極的にして、子ども のやる気を伸ばすのも方法でしょう。

子どもが後者(失敗したらあきらめるタイプ)の傾向がある場合は、「ほら、また失敗しちゃって」、「何度も同じミスを繰り返さないでよ」などと言って自信を 喪失させたり、「自分はやっぱりダメなんだ」と思わせたりするようなことは言ったりしないように、注意を払うことです。そして、意識的に、「計算ミスは多 いけど、漢字だったらすごく上手に書けるよね。漢字のようにできるようになればいいね」とか、「その分、漢字で頑張ってカバーしようか」などと、できる部 分に着目して励まして、自信につなげていくことが大切です。

 

 

香港日本人補習授業校スクールカウンセラー 合田美穂 (精神保健福祉士)