子どものこころとからだのケア

目次:

第9回 「アメとムチ」のしつけは正しい?
第8回 いじめの「周辺」について考える(下)
第7回 いじめの「周辺」について考える(上)
第6回 子どもが不安を感じたときの対応
第5回 子どものやる気と動機づけ
第4回 「期待」と「ピグマリオン効果」
第3回 「ほめる」ということについて
第2回 子どもに対する関わりの大切さ
第1回 震災報道に際しての子どもの心理的なケア

 

 

第4回 「期待」と「ピグマリオン効果」

Posted by on 4月 7, 2014 in Column | 0 comments

2011年8月18日

 

プラスの効果を「期待」すること≫

前回は、「ほめること」についてお話をさせてもらいました。「ほめることって簡単なようで、 実はとても難しいことかもしれない。“言うは易し、行うは難し”だわ」と語るAさんによると、少しでもほめるに値することを見つけては、お子さんをほめる ことができるようになったそうですが、ご主人やフィリピン人のお手伝いさんに対しては、これまであまり感謝の言葉を表していなかったことや、いきなりほめ るのも気恥ずかしい気がして、今でも全然ほめることができないでいるそうです。Aさんは「普段からほめたこともない身近な大人をほめるっていうのは、案外 難しいかもしれないわね」とも話されていました。前回のコラムでほめることの大切さを説いた筆者も、実は、遅刻や課題の未提出が続く学生さんには、ほめる ことよりも、注意をすることを最優先にしてしまったり、子育てにおいても、悪い面に気を取られて、ほめることがついおろそかになっていたりすることもあっ て、時にハッとすることがあります。

実際にも、「子どもが調子に乗って努力しなくなるかもしれないと思ったら、ほめてばかりになれな い」、「もともとほめ上手ではないので、ほめることを心掛けても、なんだか口先だけになってるような気がする」、「ほめるようになっても、子どもは以前と あまり変わっていないように感じる」、「ほめすぎると、おだててるようで、不自然に感じることもある」などと話す子育て中の親御さんや、「いたずらばかり で、ほめることよりも叱ることのほうが多くなってしまう児童がどうしてもいる」、「この子はイタズラが多くて問題児だということを入学前から聞かされてい たので、ついそういう視点で見てしまう」、「あまりにほめすぎると学生に媚びていると受け取られかねない」いう教育現場の方の声も意外とあるようです。

「な かなかうまくほめられない」、「ほめ上手になれない」。確かに場合によっては、そういうことだってあります。前回は、ほめることのプラスの効果をお伝えし ましたが、ほめること以外の方法でも、プラスの効果を期待して、心掛けをすることができます。「プラスの効果を信じて期待をすること」そのものに、実は大 きなプラスの効果が隠されているのです。ということで、今回は、ほめることの延長線上のお話として、「期待」することと、その効果(「ピグマリオン効 果」)について、お話させていただければと思います。

 

≪「期待」と「ピグマリオン効果」≫

1963 年、アメリカの教育心理学者のローゼンタールとフォードが、興味深い研究を行いました。それはネズミを使った心理学の実験で、学生たちに2つのグループの ネズミを手渡して、一方を「よく訓練されたネズミ」、もう一方を「のろまなネズミ」というふうに伝え、迷路の実験をさせたのです。その結果、前者のネズミ のグループのほうが、結果が良かったということでした。実際には、前者のネズミに対しては、特別な訓練をしたわけではなく、後者のネズミとは大きな差がな かったそうです。ローゼンタールは、この結果に対して、「学生たちは、前者のネズミが利口なネズミだと信じていたので、結果が良くなることを期待して、丁 寧に扱ったから、このような結果となった」と考えました。そして、この「期待度」による効果に興味を持ったローゼンタールは、翌年、人間(教師と児童の 間)にも似たような実験を実施したのです。

翌年、教育現場(小学校)の児童に対して、あるテストを実施しました。実は、そのテストは特 別な意味があるテストではありませんでした。その際に、学級担任に対しては、「今後数ヶ月間に、成績が伸びる可能性がある児童を見つけるためのテストであ る」と説明しました。更に、テストの結果とは関係なく、無作為に選んだ児童の名簿を学級担任に見せて、「この名簿にある子どもたちが、今後数ヶ月で成績が 伸びる可能性がある子どもたちである」と伝えたのです。数ヵ月後、その名簿にあった子どもたちの成績は、確実に向上したそうです。ローゼンタールは、この 結果を踏まえて、「学級担任が、名簿にあった子どもたちに対して、期待を込めた態度で丁寧に指導したことや、子どもたちもその期待を意識して成績が向上し たのだ」と分析しました。

この効果は、ギリシャ神話の登場人物のピグマリオン王にちなんで「ピグマリオン効果」と名づ けられました。(「教師期待効果」あるいは「ローゼンタール効果」とも呼ばれています。)一方、教師が子どもに対して、「この児童は期待できない」という 意識によって、期待をかけないような指導をしたり、まったく期待をしていないといった態度をとったり、問題児だと思いながら接したりすることによって、結 果的に子どもの成績が下がるという事例も報告されており、それは「ゴーレム効果」と呼ばれています。

少し話はそれますが、労働の場では「ホーソン効果」と呼ばれているものがあります。シカゴ近 郊のホーソン工場で、「工場内の照明の変化が作業効率に与える影響」として実施された実験がありました。この実験では、照明を明るくしても暗くしても、作 業効率は上昇するという結果が出ました。作業効率が向上した原因は、「工場の幹部が注目している実験である」ということを作業員に知らせた上での実験だっ たため、作業者の「幹部から注目されている」「実験結果が期待されている」という意識が生産性を高めたと、結論付けられました。「注目されている」、「一 目を置かれている」、「期待されている」ということがプラスの効果につながる点では、「ピグマリオン効果」と類似するところがあると思います。

 

期待にも「適度」が必要≫

「この子はやればできる子なんだ」、「この子はいいものを持っている」、「ドジなことが目立 つけれども、頭の回転が速くて計算が得意だからそれをいつも評価してあげよう」という姿勢で子どもに接する。こういった姿勢が子どもに伝わり、子どもの自 尊心が高まったり、子どもが「自分には何かができる能力があるんだ」、「先生は自分をかってくれている」、「私がピアノが上手なことをお母さんは喜んでく れている」と感じるようになって自己効力感が高まったりすると考えられるのです。ただ、この「ピグマリオン効果」や上述の「ホーソン効果」の信憑性につい ては、一部の専門家からは批判的な意見も出ていますので、この考え方だけを妄信することは避けるべきかと思いますが、親御さんや指導者の心構え程度とし て、「こういう考え方もある」と参考にするには値すると思います。

もちろん、期待にも「適度」は必要です。あまりにも期待をし過ぎたり、期待するあまりに過度 なノルマを与えたりすることによって、子どもがプレッシャーを感じることになったり、子どもが期待通りにならないからといって親が自分を責めたりすること や、「見返り」を期待し、期待はずれが失望を招く結果になってしまえば本末転倒です。また、「Bちゃんよりできてすごいわね」、「あなたはクラスで一番に なれる子よ」などと、周囲と比較する表現を使うと、子どもは周囲と比較することでしか自分の能力を確認できないようになってしまいます。また、「言わなく ても感じてくれるだろう」、「以心伝心」として、期待を心に秘めているだけでは、この思いや期待がきちんと子どもに伝わりません。「あなたにはあなただけ の素晴らしさがあるから、それに期待しているのよ」、「先生はちゃんとあなたの良さを見て、注目してますよ」、「あなたなら、きっとできると思って応援し ているわよ」ということをきちんと態度や言葉で表現して、その気持ちを持ちながら、「見返り」を求めずに、子どもに「接する」ということがとても大切だと 思います。

香港日本人補習授業校スクールカウンセラー 合田美穂 (精神保健福祉士)