子どものこころとからだのケア

目次:

第9回 「アメとムチ」のしつけは正しい?
第8回 いじめの「周辺」について考える(下)
第7回 いじめの「周辺」について考える(上)
第6回 子どもが不安を感じたときの対応
第5回 子どものやる気と動機づけ
第4回 「期待」と「ピグマリオン効果」
第3回 「ほめる」ということについて
第2回 子どもに対する関わりの大切さ
第1回 震災報道に際しての子どもの心理的なケア

 

 

第1回 震災報道に際しての子どもの心理的なケア

Posted by on 4月 7, 2014 in Column | 0 comments

2011年3月25日

 

≪震災報道が子どもに与える影響≫

東日本大震災から2週間が過ぎました。震災報道は地震発生当 初と比べるとずいぶん減ってきているものの、今もなお、被災地での地震や津波の傷跡を残した状況が、テレビを通して目に入ってきています。そのような画面 をして、震災の被害とは無縁の遠い海外にいながらも、強いショックを受けたり、胸が詰まる思いをしたりして、心を痛めている人の数は計り知れません。その ような状況の中で、子どもさんがいる香港在住の方から、「子どもが突然怖がりになった」とか「甘えてくるようになった」などといった声を聞くようになり、 被災地にいない子どもの心理的なケアの必要性について考えるようになっていたところに、興味深い記事を目にしました。

「子供の心理に影響 親が声かけ、不安取り去る工夫」(産経新聞 3月20日)と題された記事で、「子供支援学」の専門家である筑波大学大学院の徳田克己教授の興味深いお話が掲載されていました。徳田教授によると、今回 の震災後、被災地の子どもだけではなく、被災地ではない地域の子どもにも異変が起きているそうです。実際にも、阪神大震災後に、徳田教授のグループが ニュース映像を見た幼児を調査したところ、被災地ではないのに、多くの子どもに夜泣きや不登園の傾向が出たということもあったそうです。

徳田教授は、「多くの親は深く考えないまま、子どもと一緒に災害のニュースを見て、『死んだら会えないんだよ』などと話しかけたりする。震災を通じ て幼いうちから命の大切さを教えなければ、というのは勘違いで、恐怖だけを抱かせてしまう。災害から命の尊さを学べるのは小学3、4年になってから」と強 調し、震災の映像を見せたり、地震について不安な話をしたりすることの悪影響について、注意を呼びかけています。

大人なら、「自分のいる場所は今のところは大丈夫だ」とか、「今自分たちがしなければならないことをできる限りやっていこう」というように、冷静に 状況を受け止めたり、自分がとるべき態度について冷静に考えたりすることができますが、小さい子ども(特に幼児~小学校低学年)は、物事に対する理解能力 や判断能力が発達していないため、被災地の状況と現実とを混同させてしまうのです。徳田教授も、「幼児は恐怖を感じても、地震の時に正しく対処できるわけ ではなく、悪影響の方が大きい。不安を取り去るよう工夫してほしい」と強調しています。

小さい子どもがいる場合の災害情報に対する具体的な接し方として、徳田教授は、「悲惨な映像をなるべく見せない」、「親がテレビを見る時には近くに いて“ママがいるから大丈夫”といった言葉をかけて安心させる」、「災害と死を結びつけたり、死んだら会えないといった話をしたりしない」、「枕元に子ど もの宝物を置いて安心させる」などの対処法を挙げています。

 

≪子どもの心理的なストレスについて≫

特に子どもの場合は、心理的なストレスが、からだの症状 や日ごろはみられない行動の形で現れることが多くなるので、注意が必要だといわれています。日本児童青年精神医学会は、地震発生直後の3月14日に、子ど もがいる親に向けて、注意すべきこころやからだの不調についてまとめたものを、国立精神・神経医療研究センターのホームページに掲載しました。事例がとて も具体的でわかりやすいので、ここに紹介させていただきたいと思います。

<子どもに現れやすいストレス反応>

行動の反応 :
○赤ちゃんがえり(お漏らし、指しゃぶり、これまで話せたことばが話せないなど) ○甘えが強くなる ○わがままを言う、ぐ ずぐず言う ○今までできていたことも出来なくなる(食べさせてほしがる、トイレへ一人で行けない)  ○親が見えないと泣きわめく ○そわそわして落ち着きがなくなる ○ 反抗的だったり、乱暴になる ○話をしなくなる、話しかけられることを嫌がる ○遊びや勉強に集中できなくなる ○集団活動に適応できなくなる

こころの反応 :
○イライラする、機嫌が悪い ○急に素直になる ○一人になること、見知らぬ場所、暗い所や狭い所をこわがる ○少しの刺激(小さい物音、呼びかけなど)にもびっくりする ○突然興奮したり、パニック状態になる ○現実にないことを言い出す ○落ち込む、表情が乏しくなる ○ぼーっとしている

からだの反応 :
○ 食欲がなくなる、あるいは食べ過ぎる ○寝つきが悪くなる、何度も目を覚ます ○いやな夢を見る、夜泣きをする ○暗くして寝ることを嫌がる ○何度もトイレに行く、おねしょをする ○吐き気や腹痛、下痢、めまい、頭痛、息苦しさなどの症状を訴える ○喘息やアトピーなどのアレルギー症状が強まる ○ 風邪を引きやすくなる

日本児童青年精神医学会によると、以上のような、行動、から だ、こころの変化は、決して驚くような反応ではないそうです。ともに正常な反応であり、ほとんどの変化は時間とともに回復していくそうです。もし、お子さ んにこのような反応が現れたら、上述の徳田教授のアドバイスにもあるように、まずは、不安を取り去るような声かけなどを積極的に行ったり、一緒にいてあげ る時間を増やすなどの工夫が必要です。子どものからだやこころの変化に常に注意を払い、適切な対応をしていくことは、とても大切なことなのです。

 

香港日本人補習授業校スクールカウンセラー 合田美穂 (精神保健福祉士)